星 新一の小説のこと







国語や英語の教科書に、「おみやげ」「おーい、でてこーい」という名の短編
小説が載っていたことはないでしょうか。これらは星新一氏の小説で、いわゆ
る『ショート・ショート』です。
叔父がくれた短編集により彼のファンになったため、古本屋で買い集めたもの
と合わせて数十冊が家にあります。その中で、あんまりメジャーでは無さそう
だけど自分は好きだ、というものを3つほど挙げてみます。




 ◇「処刑」 (『ようこそ地球さん』収録)
彼のショート・ショートの中では割と長く、30ページほどの話です(それで
も充分短いのですが)
コンピュータによって制御・統制されるようになった『平和』な世の中では、
犯罪を起こした者は資源を取り尽くし用済みになった火星に送られます。生き
ていくのに必要な栄養を含んだ粉末100食分と、ボタンを押すと水が出てく
るか、もしくは『押した瞬間に爆発し、押した者が死ぬ』という機能を備えた
銀色の不思議な球体を渡されて。
ボタンを一度押しただけで死ぬか生きるかが決まってしまうこの残酷な仕組み
と対峙し、主人公は苦悩し酷く迷い、発狂しかけます。しかしそんな主人公が
最後に人生について悟ったこと…この話の意味を理解した時、私はかなりの感
銘を受けました。


 ◇「妖精配給会社」 (『妖精配給会社』収録)
タイトルは可愛いし、内容も魅力と希望に満ちたものです。ただし、あくまで
途中までは。この『妖精』は、今で言うなら何か?それを考えると、面白い気
がします。
突如として宇宙から地球上に降りてきた、金属性容器に入っていた卵。その卵
から孵ったのは、羽の生えたリスのような愛らしい動物。彼ら『妖精』はただ
可愛いだけではなく、『人の言葉を喋る』という特別な力を持っていました、
しかも『美しい声で飼い主に素晴らしい賛辞を与える』という力を。
この妖精と呼ばれる動物が世間一般の人に広がっていく中、幼い頃から耳が不
自由で妖精の恩恵を受けることの出来ない老社員は、この妖精によって徐々に
変わっていく社会を見て何を思うか?そして、その結論は?


 ◇「ピーターパンの島」 (『悪魔のいる天国』収録)
最初読んだ時(多分小学生)、意味が分からなかったので好きではありません
でした。意味が分かってしまったその時は、あまりの後味の悪さに嫌いになり
そうでした、でもどうしても忘れられなくて心に残る話です。良い意味でも、
悪い意味でも。
科学が支配し、社会に役立つ人間が次々と作られていく『建設的』で『健全』
な世界。この世界では妖精や夢の世界の話を信じている純粋(今でいう「子ど
もらしい子ども」)な子どもたちは非常に少なくなり、もしいたとしてもそん
な人間は『異端』で、『矯正不可能』な思考を持っているとされます。そんな
彼・彼女は、どんな結末を迎えるのか?これを読んだ時、きっと考え込んでし
まうのではないでしょうか。





少し重い内容の話ばかりを取り上げてみましたが、もちろん明るくて面白い話
もたくさんあります。小説はちょっと…という人は、星氏が趣味で集めていた
アメリカの一コママンガを載せた『進化した猿たち』という本もあります。ど
の本もすでに絶版になっている可能性もあるので、もし興味を持たれた方は古
本屋で探してみることをお勧めします。