【感想】
まず、主人公を演じているのがラッセル・クロウだと、しばらく気づきませんでした。私が知っているラッセル・クロウは『ライフ・オブ・プルーフ』のときのラッセル・クロウで、そのときの彼の役柄は、ゲリラに囚われたメグ・ライアンの夫を助けるために犯人と交渉している間にメグと恋に落ちてしまう、クールでカッコいい交渉人でした。しかし今回のラッセルは、数学に関しては天才的だが内気で人付き合いが苦手で、ちょっと太目のいわゆる『ネクラ』な青年。見事になりきっていて、ハリウッドの役者さんはすごいなあと思いました。
この映画を観る前に、精神病と戦ったノーベル賞受賞者の、実話に基づいた映画だという予備知識はあったので、てっきりその病と戦いながらノーベル賞を取るまでのちょっと泣かせる伝記映画かと思っていたら、意外にサスペンスというかミステリーというか、途中でアッと驚くどんでん返しがあって、アッと驚いてしまいました。
いや、実際はサスペンスでもミステリーでもないのですがそんな印象を受けたのは、かかっていない者には未知である精神病の世界を、あれだけはっきり映像化されたためかもしれません。傍目には奇異に見える彼の行動には、実はちゃんとした根拠がある。こうやって映像にして表してくれると、何の不思議もないことだということがわかります。
そして数学者の頭の中もよくわかるかもしれない。なぜ彼が数字に宇宙を見たか、理数系オンチの私には最初ちーともわからなかったのですが、それをハリウッドらしいきれいなCGと音楽で芸術的に表現した場面が特に印象に残りました。そういう、人の頭の中を明瞭なかたちで映像にしたのがこの映画なのかもしれません。
脚色はあるでしょうが、魅力あるナッシュという人の人生を、酸いも甘いもしっかり描いた、優しい雰囲気が漂う映画でした。