第3位


マレーナ


主演:モニカ・ベルッチ


【あらすじ】
  舞台は、第二次大戦前後のイタリア。主人公の12歳の少年は、町で評判の美女マレーナを一目見るなり恋に落ち、以来彼女から目を離せなくなる。しかし当のマレーナは、夫が戦死したり、男と遊んでいるなどとの噂をたてられたり、生活のために娼婦になるなど、波乱万丈の運命に翻弄されていく。

【感想】
  ・・・と書くと、ちょっと暗い映画ではないかと思われるかもしれませんが、実は結構笑えるところもある映画です。

 というのは、イタリアが情熱の国だからか知りませんが、『美女』に対する町の人々の態度が、それはもうマンガのように大げさだからです。町を歩く絶世の美女マレーナを見るたびに、男性たちは例外なくニヤニヤして「いい女だぜ」とささやきあい、意味もなく彼女の後ろをくっついて歩き、すきあらば話し掛けようとします。女性たちは必ずあからさまに眉をひそめて「何さ、あんな女」と悪口を言い合ったり、ニヤニヤする亭主を「あんたッ!」とどついたり。とてもわかりやすいです。主人公の少年もほとんど夢遊病のようになっていて、思春期を絵に描いたようです。日本人はそこまであからさまではないかもしれないけど、マレーナくらいの美女が近所にいたら、似たようなことになるかもしれない。

 確かに、一見するとマレーナという女性は、私たちが考える『美女』像を具現したような女性です。しかしそのことが彼女を窮地に追い込んでゆくのです。彼女が、ただ生きようと動くたびに、周囲の人々が引きずられてしまい、彼女の足を引っ張ってしまいます。別に悪意があるわけでなく、結果としてそうなってしまうのです。ただいるだけで、人々にそこまでの影響を与えてしまうというのは凄いことで、ある意味不幸とも言えるのかもしれません。が、それでも彼女は文句を言ったりせず、淡々と生き続けます。
 マレーナの歩き方には特徴があり、常にすっと背筋を伸ばし、ちょっと不自然なほど目だけを伏せ、無表情で歩きます。美女ゆえにちやほやされ、同時に人々のあられもない噂のタネにされる宿命と、静かに戦っているかのような孤高の姿です。彼女の真の魅力はそんな、美しさゆえに気づかれない強さだと思います。その強さが、ついに認められるときはくるのですが、それは美しさもなりをひそめた、ずっと後のことなのです。

  主人公の少年の目を通して見たマレーナの人生は、悲劇と理不尽の連続ですが、全体を通して思い出すとやはり戯画のようです。戯画の中を、颯爽と歩くマレーナがいて、暗い世情ながら暗いばかりではない、魅力的な映画でした。

  余談ですが、私の一番のお勧め登場人物は、主人公の少年のお父さんです。恋の病になった息子を持つと、情熱の国イタリアのお父さんはどうなるか。面白すぎる。

 TOPへ