【感想】
かなり古い、白黒映画です。ただ名作だと人に薦められて観たのですが、私は映画でこんなに心を揺さぶられたことはありません。
ストーリーとしては、イタリアの何もない広野の道のりを(小さい町や集落はあるが)、ザンパノとジェルソミーナの乗ったボロ車が走り、時々道端や集落の中、時にはサーカス小屋の中でお決まりの芸を披露するという場面がほとんどなのですが、それでも観終わった後、私はしばらく動けませんでした。というのは、ラストにあまりに衝撃を受けたからです。なんか、観終わった後の30分くらいは、自分の普段の生活とか、テレビとか、すごくどうでもよくなった。
この映画に関しては、言葉で説明するのもおこがましいという気分なのですが、とにかくジェルソミーナという女性の魅力がすごいです。小柄で年齢不詳、口元にいつもおどけたような微笑を浮かべているジェルソミーナは、乱暴者で、芸人の青年に「あいつは犬だ」と言われるほど人と心の通じ合いができず、彼女をひとりの女性とも認めないザンパノを、決して見捨てません。それには単純でない思いがあります。
まるで道化のような立ち振る舞い、それとは裏腹にどこか哀しげな瞳、その奥に潜む底抜けの優しさ。純粋とかけなげという言葉では収まりきらない、それは性別すら越えたおとぎのような、初めて出会う魅力でした。
確かにザンパノはジェルソミーナを乱暴に扱うのですが、二人の関係は、思い切った言い方をしてしまえば動物どうしのようです。よくある人間の男女の関係ではない。大人どうしでもない。それよりもっと本能的な関係のように思えます。それゆえに、不器用で、粗野とか未熟なところがありますが、胸にくる純粋さも漂います。
しかしジェルソミーナは、二人の関係をどうにか人間どうしに近づけようと努力しているように見えます。そんな彼女の気持ちを少しも分かってあげられないザンパノは、確かにどうしようもない男なのですが、実は心の奥の奥ではジェルソミーナのことを大切に思っているような感じです。しかしそれに気づくには長い道のりがあり、そんなことが簡単に自覚できるほど思慮深い男ではないのです。
さあ二人の旅はどうなるのか。気持ちをうまく言葉にできないザンパノと、言葉を越えた存在のジェルソミーナ、心が通じ合う日はくるのでしょうか。
思いもよらないラストが待っています。