先日清里に行く機会がありましたが、そこで立派なエゾカンバの木に出会いました。白いつるつるした木肌は、冷涼な清里の雰囲気によくマッチしていて、私まで何かすがすがしい気持ちを分けてもらった気になりました。そこでさっそく聴診器を取り出して、エゾカンバの「鼓動」を聴いてみることにしました。
まず樹にそっと手を触れ、木肌の感触を確かめます。滑らかでひんやりとした感触が身体の中に流れ込んできます。次に身体を密着させ、両手を樹にまわしてみます。身体全体で樹を感じ、その大きさを意識します。このようにして樹と仲良くなってから、いよいよ聴診器の登場です。木肌の凹凸のない場所に集音部を密着させると、ウーンという低い音が聞こえてきました。まるで、大地にしっかりと根を張って頑張っているんだぞと、主張しているようです。ときどき、ドーン、ドーンという力強い音も聞こえてきます。樹も生きているんだなと感じる瞬間です。
樹は動かないのでつい見過ごされがちですが、我々と同じ生き物であり、森の中で重要な役割を担っています。アコースティック・エミッションというある種の音を出していることもわかっています。「樹の鼓動」の原因はまだ解明されていない部分がありますが、我々はそれを聴くことによって、同じ森の生き物としての意識を交感することができます。聴診器が無くても、心を澄ませて樹に耳をつけてみると、「鼓動」が聴こえてくるかもしれませんね。
(おわり)