最終更新1997年8月2日

あなたは、今、幸福ですか?

山崎英則

 教育の究極の目的は、人間一人一人が幸福になることである。では、次の質問、「あなたは、今、幸福ですか?」に対して、果たして何人の人が挙手することができるであろうか。私は今、幸福であるかどうかを測定する三つの指標を紹介したい。

 1 自己との関わり
 人間は生まれたときから、自己と関わり続けている。最初、それは浅く広くであったが、中学生の頃から徐々に深く濃くなり、そして、大人の段階では、好むと好まざるとに関わらず、自己から決して逃れることのできない状況になっている。
 自分自身の、他の人間と本質的に違っている部分、すなわち、個性を自覚し、それを大切に育てていくこと、自分の個性を自分らしさとしてそのまま受け入れていくこと、このような自己肯定観を育成し、個性を完成していくこと、このことが幸福の第一の条件である。

 2 他の人間との関わり
 自分の周囲には、種々様々な人間が存在する。この事実は、年齢の違い、経験の違い、性の違い、生活の違い、民族の違い、国籍の違い、文化の違いなどから理解され、証明される。
 相互の違いの間に愛(思いやり)があるとき、相互の違いは自然に縮まり、理解が生まれてくる。表面的・皮相的理解から本質的・本格的理解へ移行していくとき、他の人間と共に生きることが可能になる。生きることは、他の人間との間にギブアンドテイクの関係があることを言う。生きることは、理性と感性の統合を本質とする。
 他の人間とともに上手に生きていく能力をもっていること、このことが幸福の第二の条件である。

 3 周りとの関わり
 われわれの周りには、上記の人間以外に、地域・社会、文化・文明、国家、自然、宇宙などが存在する。それらは、一方では、人間に大きな恵みをもたらしてくれるが、他方では、人間に対して大きな圧力を加え、害を与えている。人間はそれらのプラス面を生活の中で生かし、それらのマイナス面を最小限に抑えることができる。人間はそれらと積極的に関わることもできれば、それらと消極的に関わることもできる。
 現在では、単なる受容から創造への過程を、単なる継承から形成主体への過程を歩むことのできる人間が要請されている。つまり、周りにあるそれらを新たに造り替えて行く能力を主体的に発揮していくところに、幸福の第三の条件が発見されるのである。

 これら三つの指標は、自己の幸福度を測る物差しである。各自、現在の自分自身をこの物差しで測定し、欠けているところが発見されれば、そのところを積極的に補充し、本当の幸福に到達しうるように努力を惜しんではならない。 現在、果たして、教育はこの幸福を大きな目的に据えて、行われているのであろうか?

(おわり)